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動画の線は何故、濃く滑らかでないといけないのか? |
現在主流のセル(風)アニメーションは、一部動画のデジタル化が始まっているとは言え一般的には動画→仕上げ(彩色前の取り込み・スキャニング作業)の段階で紙からデータへ、アナログからデジタルへ変換されます。鉛筆で描かれた絵(線)がどの様にデジタル化されるのかを理解すれば、動画としてどんな線を描けば良いのかが分るかと思います。
尚、アニメ彩色で広く使用されている“RETAS”に関しては専門外ですので、これの説明に関しては専門の方に譲るとして、私の普段の仕事でも多く使用される“セル風彩色(アニメ塗り)”をベースに解説します。
また作例のペイントツールに関しては“Photoshop”をベースに説明していますので、他のツールとは若干違いがある場合もあります。
まず紙に描かれた動画をスキャナーで取り込んだ画像です。
この画像から線だけを抽出して透明なセル(レイヤー)に貼り付けます。
画像の白とグレーの格子状の部分は透明である事を表しています
※以降の画像は色トレス部分は省略しています
この画像に彩色します。通常のイラスト作業なら筆ツールで各部分の色を塗り分けて行きます。
この方法だとはみ出し等にも気を使いますし時間がかかりすぎてアニメの動画のような大量の枚数を彩色するのには向きません。そこで同じ色の範囲を塗り潰してくれる“塗り潰しツール(バケツツール)”を使用します。
このツールを適用すると画像全体の中で同じ色の範囲を塗り潰す訳ですが、“隣接”にチェックを入れておくと、カーソルで選択した部分の“閉じた”範囲内のみを塗り潰してくれます。この状態で彩色作業を行います。筆ツールではそれなりの時間がかかっていたものが、どんな広範囲でも1クリックで瞬時にムラなく作業完了します。ですので塗ると言うよりも“色を置く”感覚ですね。
しかし…。
塗り潰しツールを適用した画像を拡大したものです。
線のエッジの部分が塗り潰しきれていません。これは“アンチエイリアス”が影響しています。
見やすくするために透明部分を白にしました
アンチエイリアスとはごく簡単に言うと、ドットのギザギザが目立たない様に隣合う色同士の中間色で間を埋めてスムーズな画像にする技術です。これが厄介なのは塗り潰しツールは“同じ色”の範囲を塗りつぶすので、アンチエイリアスがつくった中間色は別の色として塗ってくれない事です。Photoshopなら塗り潰しツールの“アンチエイリアス”にチェックを入れる事で多少回避する事もできますが、小さい範囲だと主線を侵食しすぎたりしてあまり良い結果にはなりません。
この状況を打開するために画像の“二値化(二階調化)”を行います。
アンチエイリアスのある状態
二値化した状態
二値化処理を行う事でアンチエイリアス部分を排除して、主線なら黒と透明部分のみの画像を作り出す事ができます。
「そんな事をしたらギザギザが目立つんじゃないの?」
大丈夫です。彩色後にスムージング処理を施す事でアンチエイリアス状態を作り出す事ができます。
※実際の動画(拡大図)
アンチエイリアスのある状態
二値化した状態
参考として彩色済みの状態
…。
長かったですがここまでが前振りです。
様々な状態で描かれた線
動画の線を二値化すると何が起こるのか?
左の四角に合わせた調整値で二値化。最初から途切れている右の四角は論外として、真中の四角も線の薄い部分が途切れてしまっている
線が薄い(細すぎる)と線が途切れてしまいます。この状態で塗り潰しツールを使うと当然、範囲外に色が“あふれて”しまいます。
1ドットでも隙間があれば右の様に範囲外に色が漏れてしまう
この場合どうするかと言えば、“手作業”で線をつなぐ(閉じる)作業を行います。2〜3ヶ所ならまだしも、画像全体にわたってこの状態なら色を塗る以前に膨大な線修正の作業が発生し、非常な負担になってしまいます。
画像の数値を操作する事で線を濃くする事も可能ですが、線以外の何も描かれていないと思われる部分も画像の強調によってノイズが発生し、今度はノイズを除去する作業が必要になってしまいます。
真中の四角に合わせた調整値で二値化。画面全体にノイズが発生してしまっている
以上の様に薄すぎる線やきちんと閉じられていない線は仕上げスタッフに多大な負担をかけるという事を肝に銘じてください。(作品や演出の志向として意図的に途切れた線を使用する事もありますが、主線で閉じられていない部分は色トレスで閉じる等しています。)
シュッと流した線やすき間を残した線が絵的に格好いいという事は絵描きとして理解はできますが、「動画がアニメーションとしての絵の完成ではない。あくまで制作過程の1パートにすぎない」という認識を持ってください。アニメーションとしての絵の完成は撮影が済んで全処理が適用された状態ですので、それ以前の作業は以後の作業が滞りなくスムーズにかつ完璧に行える状態でカットを仕上げて渡す事が使命です。これが面倒とか理解できないなら集団作業としてのアニメーション制作には向かないという事になります。
動画マンの皆さん、“使える線”を心がけましょう。
まあ、将来動画が完全にデジタル化した際には、こんな事も昔話になるのでしょうね…。
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