皆さんは“セル(画)”を実際に見た事があるでしょうか?
私のような古いアニメファンは、“セル”と聞けば大概は見た事があり、どんな物かは分かっています。初期のアニメブーム時にはとんでもない値段がついたものもありました。
(アニメブーム以前は単なる産業廃棄物でした)
ただしセルの語源になった本物の“セルロイド”製の物を見た事がある人はほとんどいないと思われます。アニメブーム以降に普及している物は実際には“アセテートフィルム”になっていて、そもそもセルロイド製の物が日本に存在したのか私は知りません。セルロイドはかなり厄介な樹脂で、劣化しやすかったり一定の温度以上になると発火したりします。この事からセルロイド製の初期の映画フィルムは、相当の数が劣化したり保管庫の火事などで焼失していると思われます。
話が逸れました。
最近若い方の指導をしていると“セル(レイヤー)の重なりのイメージが弱い・出来ていない”と感じる事が多いです。上記の様に私の世代は特に意識しなくても、アニメのセルの重なりを物理的な実感を伴ってイメージする事ができます。
最近でもPCのペイントソフトを使ったCGイラスト等を描いている人ならレイヤーの構造がイメージできると思います。
このセル(レイヤー)の重なりを正確に認識できる事がアニメの作画において非常に重要な要素で、これが出来ていないと余計な作業に時間を使ったり、逆に必要な絵を描き忘れるなど作業に支障をきたす事になります。
具体的な事例をいくつか挙げていきますので作業の参考にして下さい。
上の様な原画があったとします。画面を縦に走る線は壁もしくは扉を表し、状況としては“壁(扉)の向こうに人物が立っている”想定です。最終的には下の様なセル画が出来上がります。
この原画を壁とキャラクターにセル分けし、AセルとBセルの組み合わせとします。まずキャラをAセルとした場合、通常は下の様にセルバレしないようにある程度余裕をもってトレスし、隠れる部分は省略してしまいます。
そして完成したセル画。分かりやすい様にBセル(壁)を半透明化しています。
今度はキャラクターをBセルにしてみましょう。セルの重なりとしてはキャラは壁の上になるので、本来壁の後ろになる部分は組みを取って画像を切り取ってしまいます。
赤い線がAセルとの組み線です。そして完成したBセル。
この例では単純な直線ですが、複雑な線でも色トレスで組み線指示をしておけば彩色時に組みの対象になったセルの部分から必要な線をコピペしてくれます。
以上の様にセル分けがある場合は、完成画面とセル分けの重なり、双方を理解し作業する必要があります。完成画面が同じでもセルの重ね方は一つではない事、カット内容によっては重なりが入れ代る場合がある事を覚えておいてください。
もう一つ、下の原画を見てください。
本サイト用に描いた作例用の原画です。このカットは髪と服が動いているので、動いていない顔〜体と動いている髪〜服にセル分けしてみましょう。当然、顔〜体がAセル、髪〜服がBセルです。(色トレス部分は省いています)
初心者の大半が描いてくる、ありがちなのが以下のパターンです。
Bセルと
Aセル。
ただ線を分けただけ。線の要素としては間違っていませんが、セルとしては線が閉じられていないので彩色できません。そこで組み線を設定して線を閉じます。
赤い線が組み線です。上記にもあるように色トレスで描いておけばAセルから必要な線をコピーしてくれます。Bセルはこれで良いでしょう。でAセル…。
体はともかく髪の重なりに組み線を取っています。これも意外に多いパターンなのですが、これだとBセル(髪)が動いている(Bセルが複数ある)場合は組みを取ったセル以外はセルバレすることになります。ですので正解はこうです。
ちゃんと塗り分け出来、かつBセルが動いても問題ない様に線を閉じています。
参考に完成状態を見てみます。
Bセル
Aセル
組み合わせ
もう一つありがちな例。上の原画の肌の部分の色トレスを表示しました。
これをセル分けした場合のAセル。
色トレスも左の様に途切れたまま上がってくる場合が多いので、実線部分と同様に塗り分け出来るように右の様にしっかりつないで閉じましょう。
最後に昔話を…。
隠れる部分の線をつなぐ場合、本来見えないのだから丁寧に描く必要もないし楽をしても良いわけです。
ですので効率重視の人はそっけなく左の様に描いてくるのですが、中には見えない事を良い事に落書きみたいにしてくる人もいます。動画チェックでもそれでリテイクを出す訳でもないので、ノリのいい仕上げさんがわざわざ塗り分けして来たりして、撮出しの時に演出さんびっくり、みたいな事もありました。
|